村上龍「半島を出よ」

村上龍「半島を出よ (上)(下)」(幻冬舎)を読みました。

2011年日本は経済的に没落し国際社会から孤立しています。
一方アメリカは北朝鮮との宥和政策を推進し、それを受けた北朝鮮側は『緩衝地帯』として日本を選択、九州制圧を目論みます。
三月9人の精鋭コマンドがナイトゲーム中の福岡ドームを占拠、三段階にわたる『半島を出よ』作戦はその端緒につきました。

代表作「コインロッカー・ベイビーズ」「愛と幻想のファシズム」と同傾向の作品。
この二作と大きく違うのは、特定の主人公を用意しなかったこと。
ヒロイズムを感じさせるカリスマめいた主人公は登場しません。
もうひとつはその重厚さです。村上龍本来の持ち味である精緻で硬質な文体に、重さが加わっています。
したがって先に挙げた二作のような疾走感と爽快感は感じられません。

上巻では近未来シミュレーション的小説あるいは仮想戦記的小説の一面があります。
しかし下巻からあのポップでバカな戦闘小説「昭和歌謡大全集」の生き残りを精神的支柱とするホームレス少年たちが占領軍に対峙するという無茶苦茶な展開になるため、その手の興味でこの作品に触れた人は失望するでしょう。
この乱暴さというか、無謀さが村上龍らしい(笑)。

とはいえ小説としてのリアリティはしっかり持っているし、綿密な調査と取材に裏づけられたと思われる北朝鮮側の兵士個人個人の回想シーンなどには現代の日本の小説には有り難いタイプの物語性とロマンティシズムがあります。
同時に、彼らから見た日本という国の異様さも描かれています。

各章ごとに中心人物が変わり、この有事を複数の角度から読者は眺めることになります。
北朝鮮の兵士、政治家、ホームレス少年群、ジャーナリスト、医師といった具合。
当然物語の展開は遅くなります。
登場人物の視点だけではなく、それぞれの章で書きたいことが違うらしく、「大濠公園にて」「赤坂の夜」「処刑式」などは、その章だけ抜き出しても優れた短編小説として成立しそうです。
そのせいか一気読みすると鈍重で散漫な印象もありますね。

わたし個人は面白かった。
村上龍ファンなら喜んで読むでしょう。
しかし先にも触れたとおり近未来シミュレーションや仮想戦記もの、あるいは現代日本文学の問題作として読んだ人には期待外れかもしれません。

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