村上龍「半島を出よ」その2

一作一更新の原則を破ってもう少し感想をつけ加え、妄想めいた意見も述べたいと思います。この「半島を出よ」、村上龍ファンとしていろいろ考えさせられるのです。

例えばプロット。
あとがきによると、作者はこの作品の構想を10年前から持ち続けていたそうです。
しかし国家から与えられた使命を最優先に考え遂行する冷静沈着な北朝鮮の兵士たちと、現在の日本社会から落伍し破壊衝動を開放する機会を狙っていた落ち着きのないホームレス少年たちの温度差は、どう見ても開きがあり過ぎます。
公のパワーと私のエネルギーの激突という図式も考えられますが、それなら自衛隊によるクーデターの方がわかりやすいのではないかと。北朝鮮はいりません。

実際、北朝鮮の部隊が攻めてくるという現実的でシリアスな話なら、シュールでパンキッシュなバカ作品(褒め言葉)「昭和歌謡大全集」関連の登場人物とその仲間たちを投入してきた時点で、物語のバランスとトーンが崩れてしまうのは予測できるはずです。
こんな作品書けば戦記ものファンや文芸評論家にボロクソ言われるのは当たり前だと思います。言われているかどうかは知らないけれど。

また、過去作品を物語の中に投入するというのなら、もっと刺激的な設定を村上龍ファンは容易に思いつくと考えます。
例えば九州を制圧した北朝鮮の『反乱軍』に対して、北海道で新国家を立ち上げた「希望の国のエクソダス」の少年たちをぶつけるとか。
あるいは北朝鮮軍ではなく、ずれた時空間から現れた「五分後の世界」の『日本軍』が現代の日本に侵攻してくる話とか。
こう妄想するのはわたしだけではないと思うのです。

しかし困ったことに、もの凄く面白い。
作者が何をしたいのか、良くわからないんだけど面白い。

「書けるわけないが、書かないと始まらない」という気持ちで書き始めたと作者は言います。
この無謀さというか、バカさ加減が村上龍の強い武器になっているのは言うまでもないことですが、本当変な小説家ですね。

この秋は村上龍のここ15年くらいの間に発表された作品を20冊ほど読み、その都度感想をアップしてきました。
ひとまず「半島を出よ」で終了することにします。

村上龍「半島を出よ」の最初の感想
http://reader-a.at.webry.info/200512/article_1.html

この記事へのコメント

2005年12月26日 16:45
村上龍は『希望の国のエクソダス』しか読んでいません。
その際も少年たちのアナーキーなあるいはニヒリツティックなパワーを前面に出したのだがそれは頭脳的なエネルギーであった。今回はやはり少年たちのしかし負のベクトルを集中した暴力というエネルギー。それを北朝鮮という
公の暴力にぶつけた。
そんな捉え方ができますね。
ただ相手を「北朝鮮」にしたところが笑い飛ばせない非常識を感じます。それならば現にある北朝鮮問題について一流文化人としてのハラの座った自分なりの見解を示すべきでしょうね。

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